作庭師 |
電動の刈り込みばさみを買ってからは3時間もあれば片づけまで出来ます。
さすがに、松と槇(まき)の剪定は専門業者に頼んでいます。こればかりは私では手がつけられません。
もう3年程前になるでしょうか。ご自宅を計画されたいとのことで京都は大原にある作庭師のアトリエ(事務所)を訪ねたことがあります。
2階にある事務所に上がると製図板にはすばらしく綺麗に描かれた手書きの図面が貼られていました。露地の石ひとつひとつが丁寧に書き込まれていました。
農機具小屋を移築されたと言われるアトリエにはそこかしこに“遊び心”が溢れていました。荒い土壁、障子の上にはめ込まれたステンドグラス、それでいてすばらしく洗練されていました。時が止まったかのような空間。
湾曲した外壁をもつ茶室の造形があまりに奇抜だったもので、「どこから思いつかれました。」とお聞きすると、たしか「ヨーロッパを旅行した時に車窓からみた景色、農家からイメージした。」とおっしゃっていました。
そこには“短時間の小手先の作業”でできたものには無い、力強さ、想像力といったものがありました。“家造り”は技術を平均化、標準化する方向にあります。コストを下げるためには必要な方向かとも思います。が、想像力とか、イマジネーションとかが希薄になっていくことも事実です。大工や左官も含めた“家づくりに携わる者”が創造するという部分がなくなる、技術を持つ職人の想像力が発揮されにくくなるんじゃないかと思うのです。
“家づくり”、まして“庭づくり”は“自分で石を置いてみないと分からない、数年、数十年後の姿を想像して剪定する”といった世界です。
常日頃の生活、遊び心が大事な世界だと思いますね。
何度か通わせて頂き見た、この景色、世界は、私が見たものの中で最良のものでした。